こころびより
サイトキャラが日替わりで登場。 過去話や未来話・裏話などが書かれていたりします。 たまに小咄も?
2007
September 07
September 07
帰ってくるつもりはなかった。飛行機のチケットも土曜日の午前中の便を取っていたし。
だけど、便を変更しても帰社したのには理由がある。
「………もう、いるわけないか」
最終便にしか乗れなかったから、会社に着いたのはもう十時近くだった。
そろそろ社内全フロアの電気が落ちる。今はまだ明かりを漏らしている企画室も否応なく仕事を終える時間だ。
そんな時間まで、彼女が残っているわけがなかった。
電気も点けないまま、持ち帰ってきた監査資料を自分の机の上に置いて、監査室を後にする。柚子と次に会えるのは月曜日だ。月曜日は朝から、今日の監査の結果をまとめるためにここに出てくる。
仕事中には無理かもしれないが、昼休みになったら聞けるかもしれない。
昨日の返事を。
自分から聞き出すつもりはない。柚子のほうから答えてくれるのを待つつもりだ。一刻も早く知りたいと思う一方で、こちらから強く押してしまうと柚子は一歩引いてしまうだろうということがわかっている。
だから、涼二は待つつもりだ。
(この状態で土日を過ごすのか………)
かなり、きついかもしれない。
昨日の告白は予定外だった。ただ、早まった、とは思っていない。
予定外ではあったが、いずれ柚子には気持ちを告げるつもりでいたのだし、あれはあれでそういうタイミングだったのだ。
しかしながら、それとこれとは別問題というわけで。
エレベーターで階下へ降りる途中、三階で止まる。
乗ってきたのは涼二も知っている男だった。
矢杉啓太。
無駄に、としか思えないくらいの長身で、涼二より十五センチは高い。がたいも良くて、ある意味悪目立ちするが、目立つという意味ではまずは顔を覚えて貰いたい営業としてはいい特徴だと言えるかもしれない。相手によってはその存在だけで威圧感を与えてしまいかねないが。
そんな彼とは、かつてこの第一営業部で机を並べていた仲である。良く一緒に呑みに行っていたし、頻度は減ったものの、今でも時折一緒に呑みに行く。
「今帰りか?」
「ああ。月曜の会議の書類を作ってたらいつの間にか寝てて、誰もいなくなってた」
のそっと、エレベーターに乗り込んでくるその顔は確かに眠たそうだ。
「相変わらずだな」
「まっすぐ帰んの?」
暗に呑みに行くことを臭わせる言葉に、乗る。
こちらから誘おうと思っていたから丁度良かった。
同じ店に二日連続で通うことは珍しくはないが、なんとなく今日は居心地が悪い。
昨日と違ってセーブすることなく、グラスをどんどん空けていく。
「ペース早いんじゃない?」
そう言われたけれども、呑まずにいられない。
呑んで、ようやく話す決心がついた。
本当は最初から言いたかったのだが、恋愛云々に関して矢杉とこれまで真剣な話をしたことがないので、これくらいの勢いが必要だった。そうじゃないと照れくさくて話せない。
「俺、告白しちゃってさ」
「あ!? 好きな女いたのか!?」
唐突すぎる話題よりも、そちらのほうが啓太には驚きだったようだ。
「いたんだよ。口にするまでははっきりそうだと思ってたわけじゃないんだけど、口にしたらそうとしか思えなくて。流れで告白してた。といっても、雰囲気に流されたとかじゃなくて、今しかないっていう感じはあったんだけどさ」
「はぁ………そりゃすごい」
「何が」
「好きな女がいたのとか、告白したとか………俺、今学生みたいな気分になったぞ」
「学生じゃなくても、好きな女は出来るし告白もするだろうよ」
「いや、そうなんだけど、改めてそういう報告を受けるとなぁ………んで? どうなったんだよ」
「どうにも」
「は?」
「告白しただけだよ。返事はまだ」
「………望み薄?」
「んなこと、言うなよ。返事はまだいいっつったんだよ」
「でも、即答できるような気持ちじゃなかったってことだよな」
「多分、向こうは何とも思ってなかったから、驚いてるだけだと思うけど。どう思う? 俺、失敗したかな」
涼二はグラスを煽って飲み干してから、もう何杯目かわからない焼酎のお代わりをする。
「俺はその場面を観ていないし。彼女のことも知らないから何とも言えない」
至極ごもっともな返答である。
「やっぱ早まったかなー。丸木さん、困るだろうなぁ。今日は会えなくてホッとしてるかも」
「それって、あんまり彼女の答えに期待していないって事?」
「………………」
横目で啓太を睨みつけた。だが、啓太がそれに怯むことはもちろんない。
「そう聞こえるよ」
「本当は、もっとゆっくり告白まで持っていくつもりだったんだ」
少しずつ知り合って、少しずつ打ち解けて。柚子はそんなタイプだ。慎重なタイプ。軽い誘いには乗らない。
「けど、呑みに誘って最初の日に告白だよ」
確かに仕事では半年一緒にやってきているから、お互いに人となりについてはそれなりに認識しているだろう。だが仕事上の付き合いとプライベートは別だ。
「そんなに気になるなら、電話でもなんでもすればいいだろ」
「返事を急かすみたいでできない」
「なら、大人しくしてるしかないな」
「わかってるよ」
わかっている。
啓太に誘われたかたちで呑みに来たが、誘われていなかったらこちらから誘っていた。そして、ただ今のにっちもさっちも行かない状況を愚痴りたかっただけなのだ。
啓太もそれには気づいているから、あまり熱心でない返答をするのだ。何しろ涼二が話していることは、一人ではどうにもしようがないことであるのだから。
(とりあえずは、月曜日、だな)
朦朧としてきた頭で、涼二はぼんやりとそう思った。
だけど、便を変更しても帰社したのには理由がある。
「………もう、いるわけないか」
最終便にしか乗れなかったから、会社に着いたのはもう十時近くだった。
そろそろ社内全フロアの電気が落ちる。今はまだ明かりを漏らしている企画室も否応なく仕事を終える時間だ。
そんな時間まで、彼女が残っているわけがなかった。
電気も点けないまま、持ち帰ってきた監査資料を自分の机の上に置いて、監査室を後にする。柚子と次に会えるのは月曜日だ。月曜日は朝から、今日の監査の結果をまとめるためにここに出てくる。
仕事中には無理かもしれないが、昼休みになったら聞けるかもしれない。
昨日の返事を。
自分から聞き出すつもりはない。柚子のほうから答えてくれるのを待つつもりだ。一刻も早く知りたいと思う一方で、こちらから強く押してしまうと柚子は一歩引いてしまうだろうということがわかっている。
だから、涼二は待つつもりだ。
(この状態で土日を過ごすのか………)
かなり、きついかもしれない。
昨日の告白は予定外だった。ただ、早まった、とは思っていない。
予定外ではあったが、いずれ柚子には気持ちを告げるつもりでいたのだし、あれはあれでそういうタイミングだったのだ。
しかしながら、それとこれとは別問題というわけで。
エレベーターで階下へ降りる途中、三階で止まる。
乗ってきたのは涼二も知っている男だった。
矢杉啓太。
無駄に、としか思えないくらいの長身で、涼二より十五センチは高い。がたいも良くて、ある意味悪目立ちするが、目立つという意味ではまずは顔を覚えて貰いたい営業としてはいい特徴だと言えるかもしれない。相手によってはその存在だけで威圧感を与えてしまいかねないが。
そんな彼とは、かつてこの第一営業部で机を並べていた仲である。良く一緒に呑みに行っていたし、頻度は減ったものの、今でも時折一緒に呑みに行く。
「今帰りか?」
「ああ。月曜の会議の書類を作ってたらいつの間にか寝てて、誰もいなくなってた」
のそっと、エレベーターに乗り込んでくるその顔は確かに眠たそうだ。
「相変わらずだな」
「まっすぐ帰んの?」
暗に呑みに行くことを臭わせる言葉に、乗る。
こちらから誘おうと思っていたから丁度良かった。
同じ店に二日連続で通うことは珍しくはないが、なんとなく今日は居心地が悪い。
昨日と違ってセーブすることなく、グラスをどんどん空けていく。
「ペース早いんじゃない?」
そう言われたけれども、呑まずにいられない。
呑んで、ようやく話す決心がついた。
本当は最初から言いたかったのだが、恋愛云々に関して矢杉とこれまで真剣な話をしたことがないので、これくらいの勢いが必要だった。そうじゃないと照れくさくて話せない。
「俺、告白しちゃってさ」
「あ!? 好きな女いたのか!?」
唐突すぎる話題よりも、そちらのほうが啓太には驚きだったようだ。
「いたんだよ。口にするまでははっきりそうだと思ってたわけじゃないんだけど、口にしたらそうとしか思えなくて。流れで告白してた。といっても、雰囲気に流されたとかじゃなくて、今しかないっていう感じはあったんだけどさ」
「はぁ………そりゃすごい」
「何が」
「好きな女がいたのとか、告白したとか………俺、今学生みたいな気分になったぞ」
「学生じゃなくても、好きな女は出来るし告白もするだろうよ」
「いや、そうなんだけど、改めてそういう報告を受けるとなぁ………んで? どうなったんだよ」
「どうにも」
「は?」
「告白しただけだよ。返事はまだ」
「………望み薄?」
「んなこと、言うなよ。返事はまだいいっつったんだよ」
「でも、即答できるような気持ちじゃなかったってことだよな」
「多分、向こうは何とも思ってなかったから、驚いてるだけだと思うけど。どう思う? 俺、失敗したかな」
涼二はグラスを煽って飲み干してから、もう何杯目かわからない焼酎のお代わりをする。
「俺はその場面を観ていないし。彼女のことも知らないから何とも言えない」
至極ごもっともな返答である。
「やっぱ早まったかなー。丸木さん、困るだろうなぁ。今日は会えなくてホッとしてるかも」
「それって、あんまり彼女の答えに期待していないって事?」
「………………」
横目で啓太を睨みつけた。だが、啓太がそれに怯むことはもちろんない。
「そう聞こえるよ」
「本当は、もっとゆっくり告白まで持っていくつもりだったんだ」
少しずつ知り合って、少しずつ打ち解けて。柚子はそんなタイプだ。慎重なタイプ。軽い誘いには乗らない。
「けど、呑みに誘って最初の日に告白だよ」
確かに仕事では半年一緒にやってきているから、お互いに人となりについてはそれなりに認識しているだろう。だが仕事上の付き合いとプライベートは別だ。
「そんなに気になるなら、電話でもなんでもすればいいだろ」
「返事を急かすみたいでできない」
「なら、大人しくしてるしかないな」
「わかってるよ」
わかっている。
啓太に誘われたかたちで呑みに来たが、誘われていなかったらこちらから誘っていた。そして、ただ今のにっちもさっちも行かない状況を愚痴りたかっただけなのだ。
啓太もそれには気づいているから、あまり熱心でない返答をするのだ。何しろ涼二が話していることは、一人ではどうにもしようがないことであるのだから。
(とりあえずは、月曜日、だな)
朦朧としてきた頭で、涼二はぼんやりとそう思った。
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