こころびより
サイトキャラが日替わりで登場。 過去話や未来話・裏話などが書かれていたりします。 たまに小咄も?
2023
August 03
August 03
格好良すぎて困る。
思わず見とれてしまうのもしょうがない。
だけど―――自分にもっと身長があれば良かったのに、なんて、こんなこと初めて思った。
今まで隣に並ぶのを躊躇ったことなんてなかったのに。
なんでだろう。
今日は花火大会。
張り切って浴衣で出かけよう! と誘って、一緒にレンタル浴衣に着替えて。
そこまでは良かったのに。
あたし、浴衣が似合ってない。
なんだか、子どもっぽくなってしまった。
大輪の朝顔があしらわれた、涼やかな水色の浴衣。
水色に合わせた抑えたピンクの帯。
可愛い色合いの浴衣は―――。
「和希?」
勇也はあたしの表情に敏感で。
あたしはあたしで感情を隠すのが下手で。
本当は楽しみで仕方なかった花火大会なのに、勇也もそれを知っているからこそ、今曇っているあたしの表情に戸惑っているのもわかってる。
わかってるけど、どうしようもなくて。
こんなの、らしくない! ないけど! ないからこそ、なんだかもう泣きそう。
「和希」
俯いて立ち止まったあたしの手を勇也が優しく取り上げる。
勇也の手が今日はいつもより熱い。
「花火、会場近くじゃないけど、静かに見られるところに行こうか」
勇也の言葉に顔を上げる。
柔らかい表情の勇也がそこにはいた。
「俺としてはあんまり行きたくないんだけど………まぁ邪険にされることはないし、静なのは間違いないしね」
そう言って、花火大会の会場へ向かう人の流れに逆らうようにして、大通りまで出てくるとタクシーに乗り込む。
どこに行くのかと思っていたけど、途中で気が付いた。
板橋のおじいちゃんのところだ。
確かに高台にその屋敷は建っていた。
ただ、花火大会の会場である港が一望できたような覚えはない。
「海が見えるわけじゃないけどね。高く上がった花火はちゃんと見えるよ」
タクシーに乗る前に事前連絡をしていたからか、立派な門の前に降り立つと、くぐり戸をするっと通り抜け、施錠されていなかった玄関から屋敷内へ足を踏み入れることが出来た。
「意外と早かったですね。花火が上がるまでにはまだ時間がありますから、何か軽く口にされますか?」
下駄を脱ぐより先に、滝川が音もなく現れる。
「こんばんは」
「ようこそいらっしゃいました。板橋もお待ち申し上げておりましたよ」
頭を下げると、微笑みながらそう言ってくれる。
逆に勇也は苦笑いだ。
「挨拶くらいはちゃんとしますよ。和希はお腹空いてる?」
「ううん」
「じゃあ、挨拶したら部屋に引きこもろう。邪魔はされたくないし」
勇也は有言実行な人だ。
本当に挨拶だけして、さっさと屋敷に用意されている自室に和希を引き連れていく。
ちょっとおじいちゃんが可哀想になる。いつものことだけど。
「浴衣だからあんまりくつろげないかもしれないけど」
ここで過ごす機会も多くなったからか、初めてここへ着たときよりもものが増えた部屋。
クッションもその一つで、和希が座りやすいように縁側に設えてくれた。
目の前には庭と芝垣があるが、視界が開けているわけではない。鬱蒼とした森まではないにしても、視界を遮るくらいには木立が続いている。外からこちらの様子が窺えないということは、こちらからも外の様子は見えないのだ。
本当に花火は見えるんだろうか。
「ね、和希」
隣に座る勇也がまた手を握ってくれる。
さっきは握られるままだったけど、和希のほうからも握り返す。指を絡めて、いわゆる恋人つなぎだ。
「浴衣、気に入らなかったわけじゃないよね。何が気になったの?」
ズバリと切り込まれてしまった。
浴衣に原因があるのは、わかりやすかったとは思うけど。
「浴衣、似合ってるし。可愛いし、人に見せびらかしたいくらいだったんだけどね」
「………似合ってないもん」
「え?」
「勇也がカッコイイのはもうわかりきってることだし、どうしようもないし、ホントはあたしだってみせびらかしたいくらいだもん。けど………あたし、横に並んだらすごく子どもっぽく見えちゃったんだよ」
ああ。言ってたら、また泣きたくなってきた。
情けないったら、もう。
勇也から目をそらして、握り合った手をじっと見つめるしかなくなる。
「和希」
少し、強い声。
「和希は時々自分の事がわかってないね」
「そんなことない」
「あるよ。俺が可愛いって言ってるのに、信用してない」
「そんなの贔屓目なだけだよ」
「贔屓目を含んでもなお、可愛いんだよ。それにね、子どもっぽいなんて、まったくないからね。わかってる?」
ぐいっと繋いだ手を引かれて、何の抵抗もできないまま勇也の胸に体ごと引き寄せられる。
空いたほうの勇也の手に頬と顎を持ち上げられて、そのまま唇が重ねられる。
いつもより少し長く重ねた唇が離れたときに、熱い吐息が零れる。
その唇を勇也の指がそっと撫でる。
「子どもにこんなことしないからね。なんならもっとしたいんだけどね」
思わず見とれてしまうのもしょうがない。
だけど―――自分にもっと身長があれば良かったのに、なんて、こんなこと初めて思った。
今まで隣に並ぶのを躊躇ったことなんてなかったのに。
なんでだろう。
今日は花火大会。
張り切って浴衣で出かけよう! と誘って、一緒にレンタル浴衣に着替えて。
そこまでは良かったのに。
あたし、浴衣が似合ってない。
なんだか、子どもっぽくなってしまった。
大輪の朝顔があしらわれた、涼やかな水色の浴衣。
水色に合わせた抑えたピンクの帯。
可愛い色合いの浴衣は―――。
「和希?」
勇也はあたしの表情に敏感で。
あたしはあたしで感情を隠すのが下手で。
本当は楽しみで仕方なかった花火大会なのに、勇也もそれを知っているからこそ、今曇っているあたしの表情に戸惑っているのもわかってる。
わかってるけど、どうしようもなくて。
こんなの、らしくない! ないけど! ないからこそ、なんだかもう泣きそう。
「和希」
俯いて立ち止まったあたしの手を勇也が優しく取り上げる。
勇也の手が今日はいつもより熱い。
「花火、会場近くじゃないけど、静かに見られるところに行こうか」
勇也の言葉に顔を上げる。
柔らかい表情の勇也がそこにはいた。
「俺としてはあんまり行きたくないんだけど………まぁ邪険にされることはないし、静なのは間違いないしね」
そう言って、花火大会の会場へ向かう人の流れに逆らうようにして、大通りまで出てくるとタクシーに乗り込む。
どこに行くのかと思っていたけど、途中で気が付いた。
板橋のおじいちゃんのところだ。
確かに高台にその屋敷は建っていた。
ただ、花火大会の会場である港が一望できたような覚えはない。
「海が見えるわけじゃないけどね。高く上がった花火はちゃんと見えるよ」
タクシーに乗る前に事前連絡をしていたからか、立派な門の前に降り立つと、くぐり戸をするっと通り抜け、施錠されていなかった玄関から屋敷内へ足を踏み入れることが出来た。
「意外と早かったですね。花火が上がるまでにはまだ時間がありますから、何か軽く口にされますか?」
下駄を脱ぐより先に、滝川が音もなく現れる。
「こんばんは」
「ようこそいらっしゃいました。板橋もお待ち申し上げておりましたよ」
頭を下げると、微笑みながらそう言ってくれる。
逆に勇也は苦笑いだ。
「挨拶くらいはちゃんとしますよ。和希はお腹空いてる?」
「ううん」
「じゃあ、挨拶したら部屋に引きこもろう。邪魔はされたくないし」
勇也は有言実行な人だ。
本当に挨拶だけして、さっさと屋敷に用意されている自室に和希を引き連れていく。
ちょっとおじいちゃんが可哀想になる。いつものことだけど。
「浴衣だからあんまりくつろげないかもしれないけど」
ここで過ごす機会も多くなったからか、初めてここへ着たときよりもものが増えた部屋。
クッションもその一つで、和希が座りやすいように縁側に設えてくれた。
目の前には庭と芝垣があるが、視界が開けているわけではない。鬱蒼とした森まではないにしても、視界を遮るくらいには木立が続いている。外からこちらの様子が窺えないということは、こちらからも外の様子は見えないのだ。
本当に花火は見えるんだろうか。
「ね、和希」
隣に座る勇也がまた手を握ってくれる。
さっきは握られるままだったけど、和希のほうからも握り返す。指を絡めて、いわゆる恋人つなぎだ。
「浴衣、気に入らなかったわけじゃないよね。何が気になったの?」
ズバリと切り込まれてしまった。
浴衣に原因があるのは、わかりやすかったとは思うけど。
「浴衣、似合ってるし。可愛いし、人に見せびらかしたいくらいだったんだけどね」
「………似合ってないもん」
「え?」
「勇也がカッコイイのはもうわかりきってることだし、どうしようもないし、ホントはあたしだってみせびらかしたいくらいだもん。けど………あたし、横に並んだらすごく子どもっぽく見えちゃったんだよ」
ああ。言ってたら、また泣きたくなってきた。
情けないったら、もう。
勇也から目をそらして、握り合った手をじっと見つめるしかなくなる。
「和希」
少し、強い声。
「和希は時々自分の事がわかってないね」
「そんなことない」
「あるよ。俺が可愛いって言ってるのに、信用してない」
「そんなの贔屓目なだけだよ」
「贔屓目を含んでもなお、可愛いんだよ。それにね、子どもっぽいなんて、まったくないからね。わかってる?」
ぐいっと繋いだ手を引かれて、何の抵抗もできないまま勇也の胸に体ごと引き寄せられる。
空いたほうの勇也の手に頬と顎を持ち上げられて、そのまま唇が重ねられる。
いつもより少し長く重ねた唇が離れたときに、熱い吐息が零れる。
その唇を勇也の指がそっと撫でる。
「子どもにこんなことしないからね。なんならもっとしたいんだけどね」
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